第二百十六回国会における経済産業委員会の御審議に先立ち、経済産業行政を取り巻く諸課題及び取組につきまして、経済産業大臣、原子力経済被害担当大臣、GX実行推進担当大臣、産業競争力担当大臣、原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当の内閣府特命担当大臣として申し上げます。
今、我が国を取り巻く情勢は、大きな転換期を迎えています。人口減少、三十年以上続くデフレ経済、地政学リスクの高まりや企業の国際競争力の低下、相次ぐ自然災害など、課題が山積しています。経済産業行政も、こうした国内外の課題にしっかりと目を向け、変化に対応し、我が国の経済活力を取り戻していく必要があります。
産業政策に目を転じれば、各国同様、我が国においても、ここ数年、DX、GXなどの成長分野での国内投資を積極的に支援してきました。
こうした政策の効果もあり、日本経済に明るい兆しが現れている一方、足下の物価高を背景に消費は力強さを欠いています。全国的に賃上げは進んでいますが、地域や業態によって上昇幅にばらつきも存在します。
長きにわたるコストカット経済から、賃上げと投資が牽引する成長型経済への転換を確実なものとするため、物価高に負けない持続的な賃上げを実現し、これを更なる消費と投資へつなげていかねばなりません。
しかし、中小企業、小規模事業者からは、業績の改善が伴わないのに人手を確保するための賃上げを迫られる厳しい状況に置かれているとの声を聞いております。
また、総理から最低賃金を引き上げていくための対応策を策定するよう指示をいただいています。事業者がもうけを生み出し、賃上げの原資を確保できるようにする必要があり、そのためには、円滑かつ迅速な価格転嫁が極めて重要であります。
このため、取引適正化に向けた取組を強化します。毎年三月と九月の価格交渉促進月間における取組に加えて、取引実態に関する情報収集体制の強化やパートナーシップ構築宣言の更なる拡大と実効性強化に取り組みます。また、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、公正取引委員会と下請法の改正を検討していきます。
さらに、企業の稼ぐ力を根本的に強化するため、中小企業の生産性向上や省力化投資を支援するとともに、地域経済を牽引する中堅企業や、売上高百億円を目指す中小企業の成長投資も支援してまいります。
我が国の将来の稼ぐ力を生み出す産業の育成を進めてまいります。
官民が連携して行う大型投資による経済効果は、実際に投資を行う大企業にとどまりません。地元の中小企業を始め、その地域に眠る投資意欲を覚醒させ、地方創生の起爆剤となる効果があります。
世界市場の大きな成長が見込まれるAI、半導体分野については、今後二〇三〇年度までに十兆円以上の公的支援を行います。これによって、十年間で五十兆を超える官民投資を実現し、約百六十兆円の経済波及効果を目指します。
イノベーションの促進も積極的に支援します。量子分野では、世界最高水準の研究開発拠点をつくるための大規模投資を行います。宇宙分野では、衛星、ロケットの打ち上げや、そこから得られるデータの利活用を加速する技術開発支援を行います。バイオ、ヘルスケア分野では、バイオ医薬品の国内製造拠点の整備や、医療機器の研究開発等を促進してまいります。
日本の成長を加速させるイノベーションを生み出すスタートアップの事業化や海外展開も支援していきます。
成長を後押しする支援策とともに、足下の物価高が続く状況の中で、エネルギー価格の高騰に苦しむ方々への支援に取り組みます。
電気・ガス料金については、電力使用量が多い一月から三月の使用分について支援を行います。燃料油価格の激変緩和事業については、今月から、出口に向けて段階的に対応してまいります。
こうした支援はいつまでも続けるべきではなく、併せて、エネルギー構造の転換も進めます。脱炭素電源を確保していくことに加え、工場、事業者に対する省エネ設備の導入支援や省エネ診断の強化、家庭における高効率給湯器の購入支援等を通じて企業や家庭での省エネを進めるとともに、クリーンエネルギー自動車の導入も支援します。
GXの実現は、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を一体的に目指す取組です。エネルギーは国民生活や経済成長の基盤であり、DXやGXの進展によって電力需要の増加が見込まれる中で、脱炭素電源の確保は国力を左右します。そのため、再エネや原子力などの脱炭素電源投資の拡大に取り組んでいきます。
再エネの導入、活用に向け、ペロブスカイト太陽電池や洋上風力のサプライチェーンの構築、地熱、水素等の取組を進めます。原子力については、安全性の確保を大前提に、地元の理解を得ながら再稼働を進めるとともに、次世代革新炉の開発、建設の具体化、バックエンド事業の加速化などに取り組んでいきます。
現在、GX二〇四〇ビジョンの策定と次期エネルギー基本計画の改定について、一体的な検討を進めております。年内に案をまとめ、今後の我が国のGX政策、エネルギー政策の方針をしっかりと示してまいります。
加えて、GXの推進に当たっては、アジアの同志国との連携も深めてまいります。私も参加した第二回AZEC首脳会合において、日本のリーダーシップの下、今後十年のためのアクションプランが合意されました。本合意に基づき、各国の事情に沿った多様な道筋の下で、手を携えながら、ルール形成を含む政策協調とプロジェクトの実施を進めてまいります。
我が国を取り巻く国際環境は刻一刻と変化しています。WTOや経済連携協定を通じたルールベースの国際経済秩序を維持強化していく方針の下、米国のトランプ新政権を始め、重要な同志国や隣国等とも密に対話を重ねていきます。
経済安全保障確保の重要性も高まっています。技術革新への投資、需要側の取組も含めたサプライチェーンの強靱化といった政策により、我が国の製品や技術の更なる優位性確保や、我が国が必要とする重要物資の確保に万全を期することが重要です。ガリウムなどのレアメタルの確保、銅の上流権益確保など、先手を打った支援を行います。
また、AZECを含め、成長著しいグローバルサウス諸国での日本企業と現地企業等が連携を促進するプロジェクトを創出し、日本経済に裨益するルール作りにつなげていきます。
ロシアによるウクライナ侵略が続く中、現地企業や中東欧諸国などの第三国と連携し、日本企業の強みを生かした復興支援に引き続き取り組んでまいります。
国民の安心、安全を守る災害対応も重要です。能登半島地震の発災から間もなく一年がたとうとしている中、九月に発生した豪雨によって、復旧復興の途上にある地域が再び大きな被害を受けました。
このことによって、復興に歩み始めていた方々の思いが断たれることがあってはなりません。今般の補正予算案に盛り込んだ支援施策等も通じて、復旧復興に全力を尽くしてまいります。
私が副大臣時代においても取り組んでいた、福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の安全かつ着実な廃炉は、引き続き経済産業省の最重要課題です。ALPS処理水の処分が完了するまで、政府として全責任を持って取り組む方針の下、一部の国、地域による日本産水産物に対する輸入規制の撤廃に向けた働きかけを行うとともに、安全性の確保、風評対策、なりわい継続支援に全力で取り組みます。
また、先日成功した燃料デブリの試験的取り出しは、より本格的な廃炉作業を迎える中で重要な一歩です。今後も安全確保に万全を期しながら作業を進めていくことが重要です。着実な廃炉の進展に向け、燃料デブリの取り出しなどに関する研究開発支援を行います。
あわせて、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組や、事業、なりわいの再建、福島イノベーション・コースト構想、新産業創出、交流人口、関係人口の拡大、芸術文化を通じた新たな魅力づくり等を通じ、被災地の復興を着実に推進します。
最後に、大阪・関西万博について申し上げます。
開幕まで、残り僅か四か月となりました。会場に集められた日本の最先端の技術が新たな産業を生み出し、さらに、地方創生につながる機会となるよう取り組んでいきます。
私も、会場となる夢洲を視察し、開幕に向けて着々と準備が進んでいることを確認しました。万博を成功に導くため、国内外を巻き込んだ機運醸成や着実な会場整備、安全確保対策等、引き続き万全の準備を進めてまいります。
以上、申し述べましたとおり、経済産業行政は多くの課題に直面しております。先般の選挙で示された国民の皆様の声を踏まえ、各党の御意見に丁寧に耳を傾けながら、経済産業大臣として全身全霊で職務に取り組んでまいります。
宮崎委員長を始め、理事、委員各位の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
以上です。