本年十月、厚生労働大臣に就任して以来、国民の生活を生涯にわたって支える厚生労働行政の諸課題に全力で取り組んでまいりました。引き続き、国民の皆様の安全、安心の確保に万全を期すことにより、社会経済活動の安定に資するよう、職務に邁進してまいります。
足下の人材確保の課題に対応する観点から、令和六年度報酬改定において講じた医療、介護、障害福祉分野の職員の処遇を改善するための措置を確実に届け、現場で働いている方々にその効果を実感していただけるようにしていくとともに、更なる賃上げを図るための支援を行ってまいります。
また、介護分野については、ICT等を活用した生産性向上の取組を強力に推進し、サービスの質の向上や職場環境改善を図るとともに、訪問介護の提供体制の確保や、介護人材の確保、育成及び定着に向けた取組を支援してまいります。
足下の物価高に対してきめ細かく対応するため、重点支援地方交付金の活用を促し、エネルギー価格や食料品価格等の物価高騰に対する医療機関、介護施設等への支援を継続してまいります。
賃上げと人手不足の緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性や付加価値を向上させ、物価上昇を上回る賃金の引上げを実現していくことが重要です。
持続的、構造的な賃上げを実現するため、引き続き、三位一体の労働市場改革を進め、個々の企業の実態に応じた、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化、リスキリングによる能力向上支援を推進してまいります。
最低賃金については、二〇二〇年代に全国平均千五百円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けます。政労使の意見交換における今後の中期的引上げ方針の議論に参画しつつ、中小企業等が賃上げしやすい環境整備に向け、業務改善助成金等を活用した生産性向上支援や価格転嫁対策の徹底等に関係省庁と連携して取り組んでまいります。
いわゆる年収の壁を意識せずに働くことができる環境づくりを後押しします。年収の壁・支援強化パッケージについて、申請書類の簡素化、審査の迅速化、ワンストップ相談体制の整備によって、社会保険の対象となる短時間労働者の方々をきめ細かく支援してまいります。
また、本年七月に公表した財政検証の結果を踏まえ、働き方に中立的な年金制度の構築や公的年金制度の所得保障、再分配機能の強化に向けた制度の見直しに取り組んでまいります。具体的には、短時間労働者について年金等の保障を厚くする観点からの更なる被用者保険の適用拡大、高齢期の活躍を後押しする観点からの在職老齢年金制度の見直し、基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了による基礎年金水準の向上等について検討を進めます。
本格的な少子高齢化、人口減少時代という時代の大きな変革期にあっても、国民お一人お一人が安心して生活できる社会保障制度を構築し、しっかりと次世代に引き継いでいくことが重要です。
このため、能力に応じて皆が支え合う全世代型社会保障の構築に向け全力を挙げているところであり、昨年末に閣議決定した改革工程に基づき検討を進めます。高額療養費制度についても、現役世代を始めとする社会保険料負担の軽減を図る観点から、必要な保障が欠けることがないよう十分配慮しながら、しっかりと検討を行ってまいります。
マイナ保険証は、医療DXの基盤として国民の皆様が健康医療情報に基づいたより良い医療を受けることを可能にするものです。今月からマイナ保険証を基本とする仕組みへと移行したところですが、最長一年間、発行済みの保険証を使い続けられることや、マイナ保険証をお持ちでない方に対して申請によらず保険者から資格確認書を交付するなど、引き続き、全ての方が安心して保険診療を受けられる環境整備に取り組んでまいります。
医療DXの実現に向けて、医療、介護全般にわたる情報を共有できる全国医療情報プラットフォームを創設するとともに、マイナポータルを活用し公的な健診情報を御自身で把握することが可能となるよう取組を進めます。また、電子カルテ情報の標準化や電子処方箋の普及拡大、診療報酬改定DXによる医療機関等の間接コストの軽減などを着実に進めます。さらに、創薬や医療機器の研究開発等に資する医療等情報の二次利用の推進や、社会保険診療報酬支払基金を医療DXに関するシステムの開発・運用主体として抜本的に改組することなどについて検討を進めるとともに、医療機関等におけるサイバーセキュリティー対策に万全を期してまいります。国民の皆様が安心してオンライン診療を受けられるよう、その適切な実施と推進のための方策について検討を進めてまいります。
二〇四〇年頃を見据え、医療、介護の複合ニーズを抱える高齢者の増大や現役世代の減少などに対応できるよう、入院のみならず、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携等を含め、医療提供体制全体をカバーする新たな地域医療構想の策定に向けた検討を進めてまいります。
また、医師偏在については、経済的インセンティブや規制的手法等を組み合わせた総合的な対策の検討を進めるほか、先行して、医師不足の地域で承継又は開業する診療所への支援やリカレント教育、医師少数区域の医療機関とのマッチング支援等に取り組みます。
医薬品産業を成長産業と位置付け、政府を挙げて、日本を創薬の地とするための支援を行います。優れた創薬シーズを基にしたスタートアップの創出を促進するため、大学等との間の橋渡しを行い、民間投資を呼び込む体制を強化するほか、創薬クラスターの発展支援によって、革新的医薬品の研究開発を加速する環境を整えるとともに、国際水準の臨床試験体制整備について検討を進めてまいります。官民連携の下、企業、大学等が安定的、継続的に創薬に取り組み、実用化につなげることができるよう、中長期的な支援スキームを検討し、国内外の多様なプレーヤーの参画を促すよう必要な支援を行ってまいります。
あわせて、ドラッグロスの解消に向けて、未承認薬のうち我が国に必要性の高い医薬品を優先して対応し、企業における開発が進むように戦略的に対応するための取組を進めてまいります。
また、後発医薬品の安定供給に向けては、計画的に生産性向上に取り組む企業に対する支援を行うとともに、少量多品目生産の非効率な生産体制の解消に向けて企業間の連携、協力、再編を強力に後押しするために企業の取組を認定する枠組みを設けることや、薬事、薬価面での対応について検討を深めてまいります。
令和七年度薬価改定については、イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討を進めてまいります。
多様性の尊重は、社会の持続的な発展の基盤であり、女性や高齢者を始め国民一人一人がその能力を十分に発揮し活躍することが我が国の活力維持、向上には不可欠です。働く方々の個々のニーズに応じて、多様で柔軟な働き方を選択することができる社会の実現を目指します。
職場における女性活躍を推進するため、男女間の賃金差異に関する情報公表の義務を従業員百一人以上の企業に拡大することについて検討するほか、いわゆるカスタマーハラスメントや就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントといった職場におけるハラスメント対策の強化についても検討を進めてまいります。
年齢にかかわらず働くことができる社会の実現に向けて、七十歳までの就業機会の確保に取り組むとともに、外国人労働者に対する就職支援の強化、働きやすい環境整備等に取り組んでまいります。
技能実習制度については、今後、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度となることから、制度の円滑な施行に向け、出入国在留管理庁等と連携してまいります。
また、非正規雇用労働者の方々の正社員への転換や、同一労働同一賃金の更なる遵守徹底などによる処遇改善に取り組みます。新卒者等に対しては、大学等と連携しながら、きめ細かな就職支援を行うとともに、いわゆる就職氷河期世代の方々に対し、就労や社会参加を支援してまいります。
このほか、過労死等の防止に取り組むほか、多様な人材が安心して働き続けられる環境を整備するため、個人事業者や高年齢労働者の安全衛生対策の推進、ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策の強化等を進めてまいります。
働く人の意識や働き方の多様化を踏まえつつ、今後の労働基準関係法制の見直し等に向け、検討を進めてまいります。
仕事と育児、介護の両立に向けた環境の整備、安心して副業、兼業に取り組むことができる環境の整備、テレワークの普及、フリーランスの方々が安心して働くことができる環境の整備を更に進めてまいります。
新型コロナウイルス感染症については、地域の医療機関の連携などによる幅広い医療機関における患者受入れ体制の整備、高齢者施設における医療機関との連携体制の確保、さらには、感染症治療薬や対症療法薬の安定供給などに取り組んでまいります。
また、新型コロナワクチンの定期接種については、六十五歳以上の方等の重症化予防を目的として本年十月より実施しております。引き続き、定期接種の対象の方に対して接種を検討していただけるよう呼びかけるとともに、ワクチン接種により健康被害が生じた方々については、予防接種法等に基づき迅速に救済してまいります。あわせて、新型コロナの罹患後症状、いわゆる後遺症に悩む方々が適切な医療を受けられる環境づくりを進めてまいります。
HPVワクチンについては、積極的勧奨の差し控えの間に機会を逃し、キャッチアップ接種期間中に接種を希望した全ての対象者に接種機会を提供できるよう、期間内に一回接種した方を対象として、最大一年間の経過措置を設けます。
さらに、科学的知見の基盤、拠点となる国立健康危機管理研究機構が来年四月に創設される予定であり、本年七月に閣議決定された新型インフルエンザ等対策政府行動計画を踏まえ、次なる感染症危機に対して着実に備えてまいります。
UHCナレッジハブを二〇二五年に我が国に設置できるよう調整するとともに、厚生労働省国際保健ビジョンを踏まえ、国際保健に関連する国内外の課題の解決に取り組んでまいります。
国民の健康寿命の延伸を図るため、第三次の健康日本21等を推進し、国民お一人お一人が健康意識を高めていただけるよう、予防、重症化予防、健康づくりに取り組んでまいります。また、事業主健診、産業保健体制の充実や、本年十月に国立成育医療研究センターに設置された女性の健康総合センターの取組を含めた女性の健康支援を推進してまいります。
受動喫煙対策については、引き続き、国民や事業者の方々への周知啓発、設備の整備に対する支援等に取り組みます。また、がん対策や循環器病対策に関する基本計画に基づいて総合的な対策を進めます。
花粉症を含むアレルギー疾患対策についても着実に推進します。
ハンセン病元患者家族の方々への補償制度を引き続き着実に実施するとともに、ハンセン病に対する偏見差別の解消等に全力で取り組みます。また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染された方々に対する給付金等にも適切に対応してまいります。
臓器移植については、臓器提供者数の増加に対応していくために、臓器移植体制の抜本的見直しなどの取組を進めてまいります。
原子爆弾被爆者援護対策につきましては、被爆の実相を後世に伝えるための取組を進めるとともに、被爆者の方々に寄り添いながら、保健、医療及び福祉にわたる総合的な支援を行ってまいります。
また、機能性表示食品を含むいわゆる健康食品による健康被害事案への対応等、食の安全の確保に取り組んでまいります。
医薬品等の安全性の確保や薬害の再発防止に一層取り組むとともに、大麻や危険ドラッグなど、薬物乱用防止対策にも取り組んでまいります。
本年一月の能登半島地震やその後の大雨など、近年、様々な災害が全国各地で発生しています。改めまして、お亡くなりになられた方々にお悔やみを申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。被災された皆様が一日も早く安全、安心な生活を取り戻すことができるよう、雇用対策や被災者の見守り及び心のケア等に引き続き全力で取り組んでまいります。また、自然災害から国民生活を守ることができるよう、保健、医療、福祉の体制や支援の強化等に取り組みます。
地域共生社会の実現に向け、包括的な支援体制の整備や成年後見制度の利用促進、身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題への対応などに取り組みます。
改正生活困窮者自立支援法等による居住支援の強化など、生活困窮者や生活保護受給者の方々の自立支援を一層充実するとともに、生活保護の生活扶助基準については社会経済情勢等を踏まえた対応を行います。
障害者や難病患者の方々が、地域や職場において、本人の希望に応じて、その方らしく暮らし、働くことができるよう、本年施行された障害者総合支援法等改正法の取組を着実に進めます。また、障害者の方々の雇用機会の拡大とその能力を発揮していただくための雇用の質の向上を図ります。
第四次自殺総合対策大綱の下で、どなたも自殺に追い込まれることのない社会の実現に向け、関係省庁と連携し、自殺対策を強化します。困難な問題を抱える女性への支援に関する法律に基づき、困難な問題を抱える女性への包括的な支援に取り組みます。
さらに、今般閣議決定された認知症施策推進基本計画にのっとって、認知症になっても希望を持って暮らし続けることができるという新しい認知症観に立ち、認知症施策に関する取組を推進し、共生社会の実現を目指します。
昨年の法改正により戦没者の遺骨収集の集中実施期間が二〇二九年度まで延長されたことを踏まえ、国の責務として可能な限り多くの御遺骨を収容し、御遺族に早期にお渡しできるよう全力を尽くします。また、その他の慰霊事業、中国残留邦人等に対する支援策もきめ細かく実施するとともに、改めて弔慰の意を表すため、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金の支給の継続に向けて検討を進めてまいります。
厚生労働行政は幅広く、様々な課題がございますが、一つ一つ思いを込めて取り組んでまいりますので、委員長、理事を始め委員の皆様、国民の皆様に一層の御理解と御協力を賜りますようお願いを申し上げます。