有志の会の北神圭朗です。よろしくお願いいたします。
憲法審査会も新しい体制となりました。新しい体制でありますから、当然、新しい試みも期待されます。しかし一方で、長年、議論百出、しかし結論出ずという状態が続いてきたことを考えますと、白紙からではなく、前体制から継承すべきものは継承していくことを求めたいと思います。
とりわけ、選挙困難事態における国会機能の維持については、それなりに濃密な議論を通じて審議を前に進めてきた自負があります。ただ、惜しむらくは、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の間では詳細に至るまでの合意ができながら、本審査会で具体案の議論ができなかったことです。
我々五会派の問題意識は、大規模な災害などにより選挙ができない場合、国会の機能を可能な限り維持するためには、どうしても議員の任期の延長等の創設が必要ではないかというものです。
これに対して反対派からは、災害とか言うけれども、広範な地域をまたがって、かつ長期にわたって選挙ができないほどの大規模のものは想定しにくい、仮にそんな奇想天外なことが起きても参議院の緊急集会で十分対応できる、新しい制度をつくればその濫用の危険性があるというふうに反論されております。
緊急集会の開催期間については、一部の学者が云々する七十日間という制限は単なる目安であり、超えても何ら支障はない、また、参議院は確かに国会の半分しか構成していないけれども、緊急時に鑑み、長期間でも衆参合わせた国会としての機能を全面的に発揮できるんだ、以上のようなものだと理解しております。
これに対して我々は、一つは、憲法五十四条一項を素直に読みますと、解散による衆議院の不在期間が最長で七十日間であることは明白である。二つ目には、緊急集会は、同条二項の両院同時活動の原則の例外であり、その活動範囲や開催期間は抑制的に解釈すべきである。三点目は、百歩譲って七十日間を超えて開催できるとしても、では、どこまで延長が可能なのか、その限度に関する合理的な基準が見当たらず、それこそ濫用を止める手だてがないというふうに考えております。
要するに、改正を嫌がる余り、緊急集会に権限を与えようとする、しかし、権限を与えようとすればするほど、今度は条文解釈に無理が生じ、緊急集会の濫用に歯止めがかからない。護憲の信念が強いがゆえに、図らずも解釈改憲を許す。第九条をめぐる議論と似た、興味深い逆説的な心理現象だと理解しております。
思い起こすべきは、一九四八年の第三回国会において、当時の吉田総理が、自分の思いどおりにならない衆議院を解散して、緊急集会を利用して予算の議決を図ろうとしたことです。緊急集会とて権力に濫用され得る、この事実にも注意を払うべきでしょう。
それから、外に目を向ければ、先ほども話がありましたが、韓国の大統領が非常戒厳を発令した一連の出来事も、国会機能の維持を考えるのに参考になります。
一つは、古今東西、危機が訪れる際には、どうしても行政権に権力が集中するということであります。あるいは、これを理由に自分の権力の強化を図ろうとする不逞のやからが出てくるおそれがあります。
無論、日本国憲法には戒厳令の規定はありません。しかし、あの進歩主義、憲法学の大家である高橋和之先生でさえ、憲法に危機管理の規定を設けることには反対するが、本当に非常事態が生じたら超法規的措置を取るしかないと本審査会で発言されております。つまり、緊急時には、規定があろうともなかろうとも、行政への権力集中、少なくとも事実上の権力集中が必要だと、この憲法学者も認められているのです。
こうしたことからすれば、ふだんから行政への権力集中を牽制するために、できる限り国会の機能を守る必要がありますよというのが我々の問題意識です。
もう一つ、韓国の事例が参考になるのは、予想できない事態に対して、あらかじめ危機管理の手続を憲法に規定しておくことがいかに大事なことかということです。韓国憲法第七十七条五項には、国会が在籍議員の過半数の賛成により戒厳の解除を要求したときは、大統領はこれを解除しなければならないと規定されています。大統領の非常戒厳令に対する手続が明記されていたからこそ、国会はこれにのっとって非常戒厳の解除をすぐに行うことができたのです。
これらのことを踏まえれば、緊急時に行政権の暴走を牽制する仕組みを憲法に明記することこそが、国会中心の民主主義を守ることにつながるのではないでしょうか。
なお、維新、国民民主との三会派の共同提案においては、議員任期の延長などと併せて、憲法第五十三条の改正を盛り込んでいます。
具体的には、国会の臨時会召集の要求に係る召集期限を二十日以内と明記しております。期限を切ることによって、確実に臨時会が開かれることを期するものであります。これも、緊急時にいかに国会を機能させるかという一貫した発想に基づくものであります。こうした論点についても、各会派の理解が得られやすい事項と思われますので、本格的に議論をする必要があります。
最後に、そもそも我々本審査会の任務とは何か。
前身の憲法調査会は、衆議院の規程第一条により、設置趣旨が「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うものとする。」にとどまっています。これに対して、本審査会の衆議院規程の第一条には、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、」ここまでは趣旨は一緒なんですが、その後に、「日本国憲法の改正案の原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するものとする。」と規定されています。
残念ながら、国民投票法は別にして、憲法審査会はいまだに憲法改正に向けた任務を果たしていません。是非、新しい体制の下で、中山会長がおっしゃった偉大なる妥協を発揮して、本審査会の任務をしっかりと遂げられるよう要請をして、私の意見といたします。